野村将揮
無題
更新日:2018年10月31日
小学6年生と、乙武洋匡『五体不満足』について一時間ほど話をした。読書感想文の課題図書として、家の書棚にあったものを手に取ったらしい。まだ助詞の使い方も的を得ず、主語や述語が不在の言葉を吐いてしまうような時分に、平等とは、正義とは、生きることとは何かを懸命に考えているさまは、形容しがたい仕方で、つまり今までに感じたことの無いものとして、こちら側の心を揺さぶった。素直さや誠実さといったもの類のものは、あくまで、他人から教わりそして受け継いでいくものなのだろうとは常々感じていたが、自分が微塵ほどであってもそれに貢献できたなら、いま顔の浮かぶ人への報恩もできているのかもしれないし、そういった系譜、線でも面でもなく流れを伴ったものの内に身を置けるというのは、本当に幸福なことだと思う。
幾分も歪だが、自分を寄って支える精神的支柱の多さと強靭さに、本当に嬉しくなった。それは中学時代に聴き込んだサザンの曲かもしれないし、18歳のときに読んだ高見順の手記の一節かもしれない。数年を賭して考え続けてきた存在を揺るがすような問いの答のようなものかもしれないし、ふと眠る前に浮かぶ表情かもしれない。そういうものがこれからも増えていったらよいと思うし、自覚されないほどに消化され血肉になるまで、大切に持っておきたい。