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  • 野村将揮

若者は何を見てきたか

最終更新: 2018年10月31日

あくまで個人の体験ベースになってしまうが、僕らの世代はやはりバラエティ番組を観て育ってきたのだと思う。たとえば「ザ・鉄腕ダッシュ」のDASH村の話、「力の限りゴーゴゴー!!」のハモネプの話、「学校へ行こう」の東京ラブストーリー、「ガチンコ」のファイトクラブといった企画の数々は、小学生の時分にクラスメイトとよく話題にした。これはもしかすると僕が男子だったからかもしれない。田舎だったためにコンビニや書店が滅法少なく、マンガがあまり話題にならなかったからかもしれない。山と海とに囲まれ富山から離れて旅行に行くことが少なかったからかもしれない。ともかく、少なくとも僕は、バラエティ番組を観て育ってきたのだと思っている。


僕らはそこに人間の姿を感じ取っていた。収穫された鶏卵の美しい曲線、予選敗退の末に真っ直ぐ伝う涙滴、あまりに不器用で愚直な告白の言葉、心身の極限に挑む人間の紅潮する頬。これらは全てイメージとして僕の胸中に刻まれている。それらは俗に言うヤラセだったのかもしれない。DASH村の裏では農産物・畜産物の徹底した管理があっただろうし、ハモネプでは選曲にあたって同社に関わりの深い楽曲が望まれることもあっただろう。東京ラブストーリーやファイトクラブは台本の用意された寸劇として行われていたかもしれない。全ては実像ではなく虚像だったかもしれない。だが、たとえブロット通りの物語だったとしても、若者はそこに人間の姿を見てきたのだと思う。


バラエティ番組から何かを学んだ、などという大袈裟なことを言うつもりは無い。テレビ番組制作の主目的は金銭的利益を得ること、そんなことは当たり前の話である。しかしそれでも、僕が触れてきた上記の番組企画には、思い返すにつけて、大人たちのメッセージが鮮明に打ち出されていたのだと感じる。そして僕らは、それが「他人」の話であり凡そ自分には起こり得ないであろう「非日常」と分かっていながらも、そのようなものに触れ、何かを感じ、何気ない日常の中で話題の中心として共有していたのである。


多くの中学生と同様、僕も中学校ではとても厳しい部活に入り、朝昼夜と練習に励んだ(今でも当時の夢を見て寝汗をかく程である)。テレビは自然と観なくなった。インターネットもまだ普及しておらず、帰宅後はというと、携帯電話の着信音を人によって変えておき、疲れ切った体を横にしながらひたすら特定の曲をただ心待ちにする日々だった。そこにはバラエティ番組のようなプロットは無かったが、監督や先輩の姿が生々しい具体的な表情や言葉を幾度と無く突き付けられ、傷付き苦しみ、そして何度も支えられることになった。人生何十年の視点で考えると、そこには紛れも無く、多くの心優しい大人たちの愛情に支えられて、奇跡的な非日常が日常的に織り成されていた。そのことに無自覚であれたことの幸福であり、そのことを思い返せることの幸福である。その持続という幸福である。


陳腐な言い方になってしまうが、スマートフォンで遊べるソーシャルゲームやSNSには、これらの類のものが殆ど無いのだと思う。現代の人間疎外がどうしただとか、孤独感がどうしただとか、そういう次元の話をしたいのではない。人間の生々しい物語に日常的に晒されることによってのみ、人間は生へのリアリティを同定し獲得し得るのではないか、と思う、ただそれだけの話である。おいしいラーメンを食べたことを共有することを毎日三年間重ねたときに残るのは、せいぜい写真と領収書と脂肪だけだろう。ソーシャルゲームに毎日何時間を費やそうとも、他者や社会と共有すべき自己を確立することは叶わないだろう。そして、自己を共有すべき対象としての他者も社会も獲得されないだろう。若者が目にし、他者と共有してきたものの性質そのものが変わりつつある、という視点は、実は存外に大切なのではないかと感じている。この点は現前している諸問題に通底しているのだと思う。

それらは全て、大人に責任がある。子どもが何に曝されるか、そして何を感じ取れるようになるかは、すべて大人に懸かっている。僕らは、世に言われていることとは違うかもしれないが、名前も知らない立派な大人たちに育てられてきたのである。そしてそれがもし引き継がれていないのであれば、それはつまり僕らの責任なのだと思う。人間の建設は、教育と呼ばれる制度にのみ立脚しているのではない。日常においてどのような非日常を見せ、そしてそれを日常として自ら形作っていくような努力を要請し、助けていくのか。次世代というのはそういう観点から考えられるべきでもあるだろう。

なんか毎度脈絡が無いが、ふと思いついたことを書き綴っているだけで、別段、結論めいたものを導きたいわけではないので、まぁよしとする。厳密には、これを断罪する拠り所が無いというのが正直なところである。

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