国連・官邸を巻き込む
新世代ニュータイプリーダー③
牧浦土雅(24):学習院初等科、杉並区立和田中学校、英国Cheltenham College、Strathallan Schoolを経てUniversity of Bristol入学(入学前に1年間ギャップイヤーを取得しアフリカで国連と共同プロジェクトを実施)。2年次に中退後、タイでの事業実施(東京大学との共同研究)、Quipperの海外事業拡大を担う傍ら、国家戦略特区の活用に向けて官邸で安倍総理以下関係大臣への提言、受動喫煙防止に向けた小池知事への提言書取りまとめにも携わる。本年夏より拠点をアフリカに移し宇宙事業に尽力。

土雅:アフリカに戻りたかったんですが、当座5年から10年は飛躍的には発展しなさそうだったので、だったら発展の真っ只中で盛り上がっている国で何かしらの寄与できたらと考え、タイに行きました。
タイでは、東京大学の空間科学情報センターの資金をもらって、当時はまだ珍しかった情報銀行サービスを作っていました。我々が本当にターゲットにしたかったのは、poor of the poorの人たち。農業しかやっておらず、何とか携帯電話だけは持っています、みたいな、担保として他人に差し出す資産が何も無い人たちでした。そういった人たちが提供し得る価値あるものって、データじゃないかと。例えば、BloombergやReutersのニュースや、MOOCS(インターネット上の公開講義)を見ている人たちは、信用スコアが上がっていくような仕組みができれば、それが担保になってお金を借りられるようになるんじゃないかって。
野村:当時19歳でしょうか。最近中国でアリババが信用スコアを導入していますが、先見の明がすごいですし、行動力も凄まじいですね。
土雅:本質的には正しい視点だったと思うのですが、それを実際にやり切るには、あらゆるもののレベルが全く達していませんでした。日本に比べて規制が緩やかでしたが、それでも全然無理でした。
それで、次は何をやるかって考えた際に、日本の大手商社がバンコクのタクシー20,000台の運行情報を保有していて、にも関わらず全く活用されていないと知りました。当時、GoogleがWazeというイスラエル発のスタートアップを買収したのですが、これはタクシーの運行情報を元に渋滞を回避できるルートを提案するサービスでした。シアトルの大学教授が関連する論文を書いていたのを読み込んで、これはタイでもやれる、と思って早速取り掛かり始めます。Airbnb(不在時に自室を貸し出せるシェアリングサービス)で家を借りて、日本から東大の研究生を呼んで、ひたすら開発と運用。ただ、考えてみれば当然なのですが、バンコクには数百万台の車がうごめいていて、我々の有する数万台程度のデータでは全くどうにもなりませんでした。
野村:ネガティブな意味ではなく、僕も色々な人から「牧浦さんって何してる人なんですか」っていう質問を受けるのですが、
土雅:なんでのむ犬(「野村さん、無類の犬好き」の略)がそんな質問を受けるんだよ(笑)
野村:俺に聞かれても(笑)。
そう、それで、ブレインストーミングして、これをやろうと提案して、大きな方向性を示しつつ人を巻き込んでいく。これは実はものすごく重要な資質だと思います。ロジカルなだけでは、経験があるだけでは、こういったことはできない。
ちなみに、これらの事業は売上は立ちましたか?
土雅:いや、全く(笑)。アプリをローンチして、せいぜい数万人が使ったっていう程度でした。
野村:ちなみに、東大の空間科学情報センターとはどういうつながりだったのですか?
土雅:もともと「情報銀行」というプロジェクトを提唱していた東京大学の柴崎教授がTEDxTokyoでお話しされていたのを聞いて、「これは日本よりもタイなどの途上国でやるべきだ」と直訴したら、そのまま話が進んでいきました。提携先のタマサート大学の学生も巻き込んで欲しい、お金も出す、って。最後の発表会では柴崎先生もタイまで足を運んでくださいました。今も関係は続いています。
野村:お話を聞きながら思ったのは、マーケットの潮流を呼んで、いわゆるVIPに理解を乞うて投資してもらう、サプライチェーンを構築する、ということの重要性ですね。エンジニアは具体的なプロダクトやサービスで示せるのですが、その裏にあるものを、形の無い状況の中で示し続けることができるか。
土雅:あとは、やり切ることに尽きるのだと思います。
野村:それで、1年間タイで過ごした後に、日本に戻ってきたのですか?

土雅:そうです。帰国したタイミングで、丁度ドローンの波が到来していました。それで、よし、ドローンやろう、って。当時の日本にはまだドローンの専門家と呼ばれる人がいなかったので、まずは10人ぐらいで勉強会を始めました。関心をお持ちだった堀江貴文さんらとも話をしていました。
野村:堀江さんとはどういう経緯でお知り合いに?
土雅:大学辞めたタイミングでブログを書いたら、当時それがすごく拡散されて。堀江さんがNewsPicksでもコメントをくださったことを受けて、Facebookで、是非お会いしたいです、と連絡して、快諾いただきました。
ドローンの勉強会を開催してみたところ、意外にも皆さん初対面でした。大学の研究者からperfumeのPVも撮ったカメラマンまで多岐にわたる顔ぶれが揃ってくださって、それでは一度イベントを、ということになり、渋谷のLOFTWORKで開催。100人の席が瞬く間に埋まって、150人席に拡大するほど大盛況に。
そして、それから数週間で官邸にドローンが墜落事件が(笑)。
野村:なるほど。それで多くの人が「ドローン」でWeb検索すると、そのイベントが上の方に表示されるわけですね(笑)
土雅:まさに。Facebookグループも1700人を超えました。あとは、ご縁のあった仙北市でアドバイザーに就任したり、内閣府の地方創生推進室(特区制度を所掌)を紹介されたので想いを語ったらそれを始点にして規制が緩和されたり、そうこうしている内に総理官邸の規制改革推進会合でプレゼンしてほしいって依頼されるに至って。
野村:前日にめちゃくちゃ焦りながら電話で「ネクタイ必須?」「当日は追加資料配布できる?」「髭は剃らなきゃダメ?」って聞いてきたあのときですね(笑)。
土雅:その節はお世話になりました(笑)。隣がDeNAの南場智子さんと日産のカルロス・ゴーンさんだったので、プレゼンの場でアドリブで「ゴーンさんの隣で車の話を持ち出すのは恐縮ですが、ドローンレースは空のF1のようなものでして…」と言ったら、大爆笑の予定が会場は大沈黙、ゴーンさん御本人はというと、同時通訳でタイムラグがあったようで、10秒ぐらいしてから「ふふっ」と鼻で笑われていました。
野村:ひどい話としか言いようがない話です(笑)。
さて、哲学というか形而上の話をしていきたいと思うのですが、お話をうかがったこの半生における行動原理はどういったものなのでしょうか。