自治体から時代を進める
〜全国最年少副市長の挑戦〜④
毛塚幹人(27):
宇都宮大学教育学部附属中学、宇都宮高校、東京大学法学部を経て財務省入省。G20関連業務、近畿財務局出向、税制改正関連業務に携わったのち、つくば市副市長に就任、全国最年少副市長となる。"アジャイル行政"のコンセプトの下、全国各自治体のモデルとなる取組を多数推進している。

各省合同の国家公務員研修の
政策コンテストにて最優秀賞を受賞
毛塚:その後、近畿財務局に出向して自治体行政に関わったり主税局総務課で税制改正に関わったりしましたが、やはり総合調整、いわゆる根回しの重要性と難しさを学んだ日々でもありました。尊敬できる課長や室長があれだけ奔走しても、当然どうしてもうまくいかない時もある。だからこそのやり甲斐もあるのですが。
野村:全体観と相場観が肝だ、と僕もよく口にしていますが、合意形成に向けて誰から事前説明入るか、そして都度どこまで内容を入れるか、といった感覚値が得られる場はなかなかありません。極めて日本的ではありますが、多様なステークホルダー間の調整能力は、やはり官僚が圧倒的に身に付きやすいと感じます。
毛塚:一方で、学生時代につくば市について知るにつけて、自治体のフットワークの軽さを感じていました。自治体はいわば行政におけるスタートアップ。いまも地方自治体で実例を生み出すことの価値も大きいと身を以て学んでいます。
このことが念頭にありつつ、霞ヶ関で自分が上にいくには時間がかかるし、霞ヶ関に学部時代からの仲間もたくさんいてくれる中、僕はゲリラ的に攻めていってもいいなと考え至ります。
野村:つくば市、福岡市あたりはそのマインドを体現されている印象です。マクロがわかるからこそ、セミマクロやミクロにおける重要さがわかる。ミクロから入ると、マクロを批判するだけで終わる。
毛塚:実際につくば市にはRPAについてだけでも50以上の自治体が視察に来訪してくださっています。その都度、「つくば市さんの前例があるから、地元の議会を説得できる」と言ってもらえたり、国の分科会でプレゼンした内容が国の政策に反映されたりしていて、すごくいい流れだと感じています。自治体もこういった形で世の中にインパクトを与えられるのだという実感を強く持っています。
野村:筑波大学を有し、多くの企業も集積しているつくば市ですが、技術で人類を幸福に、と叫ぶのは簡単なところ、調整して具体に結実させていくのは本当に大変だと推察します。
毛塚:つくば市は今までの研究業績で言えば世界有数なのですが、社会実装はまだまだです。市民の意識調査では、科学技術の恩恵を感じている割合は半数に及んでいません。先週訪問してきた姉妹都市深センとの比較でも、科学技術の水準で言えばつくば市も決して負けていないのですが、あそこはスモールスタートで始めるのが本当にうまい。これはスピード感とお金の集め方の問題にほかなりません。実際、深センの街中ではすでに自動運転バスが街を走っていて、僕も乗せてもらいました。
野村:深センはハードウェアのシリコンバレーと呼ばれているように、都市圏内で様々な部品や技術者を結集させてプロトタイプ(試作品)をIP(知的財産)ほぼ度外視で作りまくっています。そして、そのスピードが桁違い。
毛塚:プロトタイプという意味ではつくば市も負けておらず、研究者の無茶振りに応えて続けてきた中小企業も実はたくさんあります。深センとの連携可能性は大いにありますが、量産フェーズに入るにあたって1000台単位でも知財リスクやコミュニケーションコストを考えると実際には国内生産となることが多いです。10000台単位になると深センとも連携余地が見えてくるのかもしれないと感じています。
野村:夏に深センに続けてハノイに行ってきたのですが、大きな可能性を感じました。社会主義をまだ保持しているベトナムですが、ハノイにはナイキをはじめ多くの工場があって、マニュアルレイバー(手工業者)が多い。門戸が本格的に解放されたら、すぐさま外資が入ってIT化が進んでいくでしょう。真面目で規則を守る気質も日本と近く、親和性を感じます。
毛塚:たしかに。都市においてもアービトラージがあると思っていて、ハノイのように社会制度としてブロックされている側面があるため、アービトラージが溜まっているだろうと思います。日本には途上国と姉妹都市を結んでいる都市が多くはありませんが、いま現在も五十嵐市長はマラケシュに行って全アフリカ市町村長サミットに日本で唯一の市長として出席中です。姉妹都市って伝統的には交流事業に終始していた中、今後は科学技術や経済分野における連携などの可能性もあると考えています。
野村:(一時離席後)相当話が飛躍しますが、人間は好きですか?